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名古屋地方裁判所 昭和43年(わ)140号 判決 1969年2月17日

本籍

埼玉県熊谷市大字熊谷一一七六番地

住居

名古屋市中村区小鳥町四番地

土木工事請負業

矢沢利男

昭和四年九月四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について当裁判所は検察官小和美出席の上審理をして左のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となる事実)

被告人は土木建築工事請負業を営んでいるものであるが、所得税を免がれようと企て

第一、昭和三九年度における実際の総所得金額が、少くとも金一、五〇九万四、一五六円で、これに対する所得税額は、金六六七万五、九〇〇円であるのに、架空労務費及び架空外注加工費を営業所得に計上して、その一部を加空名義の予金をするなどの不法の方法をもつて所得の一部を秘匿し、昭和四〇年三月一五日所轄名古屋中村税務署において同署長に対し、総所得金額を金七三三万七、四九三円、これに対する所得税額が金二五四万五、八五〇円であると過少の所得税確定申告書を提出して、不正の行為によつて正規所得税額と申告所得税額との差額金四一三万円を免がれ

第二、昭和四〇年度における実際の総所得金額が、少くとも、金一、五八四万一、六〇二円で、これに対する所得税額は、金七〇八万一、八〇〇円であるのに、前記同様の手段方法によつて所得の一部を秘匿し、昭和四一年三月一五日前記中村税務署において、同署長に対し、総所得金額を金七五八万一、八一〇円、これに対する所得税額が金二六六万三、九〇〇円であると過少の所得税確定申告書を提出して、不正の行為によつて正規所得税額と申告所得税額との差額金四四一万七、九〇〇円を免がれ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公廷における供述

二、被告人の司法警察員の職務を行う大蔵事務官に対する質問顛末書及び検察官に対する供述調書

三、立松昇の司法警察員の職務を行う大蔵事務官に対する質問顛末書及び検察官に対する供述調書

四、立松昇、馬場精一、小池敏彦、青山周司、原料鉦義、春日忠男及び被告人各提出の上申書

五、大蔵事務官作成の告発状、脱税額計算書、同説明資料、調査報告書、確認書

六、中村税務署長、兵庫相互銀行、同銀行神戸駅前支店、同銀行名古屋支店、同銀行西陣支店、同銀行上前津支店、東海銀行大船町支店、同銀行中村支店、十六銀行名古屋駅前支店、大和銀銀名古屋駅前支店、同銀行中村支店、同銀行桜通支店、埼玉銀行名古屋支店、北海道柘植銀行名古屋駅前支店、中央信託銀行、名古屋フロードネオン電気株式会社、中部電力株式会社、竹中工務店名古屋支店、野村証券名古屋駅前支店、安藤証券、第一証券名古屋支店、東春信用組合中村支店各提出の証明書

七、押収した証第一号(経費明細帳一綴)、証第二乃至二五号(労務者出勤表二五綴)、証第二六号(金銭出納帳一冊)、証第二七乃至三〇号(手形貸付元帳二枚、二綴)、証第三一号(リベート帳一冊)、証第三二号(昭和四〇年度元帳一綴)、証第三二乃至四五号(領収書七綴)、証第四六号(現金出納簿一冊)、証第四七号(定期予金元帳一冊)、証第四八乃至五二号(掛金元帳四枚)、証第五二号(貸金ノート一冊)、証第五四号(貸金メモ一綴)、証第五五乃至五七号(所得税源泉徴収簿三綴)、証第五八乃至六〇号(元帳三綴)、証第六一号(保証金預託証書、一時預り証、通知等一綴)、証第六二号(領収証一枚)、証第六三、六四号(融資申込書二綴)、証第六五乃至六八号(担保台帳四綴)、証第六九号(仕入帳一綴)、証第七〇、七一号(領収証二綴)、証第七二号(失業保険料領収証一綴)、証第七三号(厚生年金保険料領収証一綴)、証第七四号(健康保険料領収証一綴)、証第七五号(市民税支払明細表一綴)、証第七六号(健康保険料領収証一綴)、証第七七号(失業保険料領収証一綴)、証第七八乃至九五号(労務者出勤表一綴)、証第九六号(労務費収支一覧表一綴)、証第九七乃至一〇〇号(領収証等四綴)、証第一〇一号(仮払総括元帳一綴)、証第一〇二号(手形受払帳一綴)、証第一〇三号(経費明細帳一綴)、証第一〇四号(税務関係書類一綴)

(法令の適用)

判示第一の事実は昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法第六九条、第二六条第一項第三号、所得税法附則(昭和四〇年法律第三三号)第二条第三五条に、判示第二の事実は昭和四〇年法律第三三号所得税法第二三八条第一二〇条第一項第三号に各該当するので所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条、第一〇条、第四八条によつて懲役刑につき重い判示第二の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で又罰金刑につき合算額の範囲内で、被告人を懲役八月及び罰金三〇〇万円に処する。刑法第一八条第一項によつて右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

なお被告人には前科がなく、不時に入用の営業資金を捻出するため不正の方法による脱税を思い立ち、事務長立松昇に命じて過少の所得税確定申告をさせて本件を犯したものであるからその刑事責任は軽くないが、前非を悔い、逋脱した税金を既に完納し将来はかゝる不正な申告をしない事を誓い改悛の情も見られるので刑法第二五条によつて本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 村本晃)

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